最前線で見た作業員たちの背中
震災直後、われわれが活動するJヴィレッジは原発事故の安定化に向けた拠点として機能することになりました。作業員の皆さんは寒い中、昼夜を問わず事態の収束に向けて命懸けで働いていました。自分自身も福島県の出身です。その故郷を守るために活動されている皆さんの背中をこの目で見て、自分もできることで最善を尽くそうと決意しました。
温かい料理を提供して、作業員の皆さんに体力をつけてもらいたいと必死でした。送り出す時は、皆さんの安全といち早い復旧を願っていました。
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株式会社DREAM24 代表取締役/サッカー日本代表帯同シェフ
JFAナショナルトレーニングセンターJヴィレッジの元総料理長。2004年からサッカー日本代表の専属シェフとして帯同し、代表選手のパフォーマンスと健康を支えてきた。震災後はJヴィレッジ内に「ハーフタイム」、広野町二ッ沼公園内に「アルパインローズ」、いわきFCパーク内の「NISHI ’s KITCHEN」などのレストランを展開。現在は広野町のひろのてらす内の「くっちーな」を経営。スポーツや復興関連のイベントに多数出展し、世界中でおいしい料理を届けている。
地域とともに歩むシェフとして
食とスポーツの力で復興を後押し
全ては地域の笑顔のために
MESSAGE ふくしまに寄り添う、あの日も、これからも
震災直後、われわれが活動するJヴィレッジは原発事故の安定化に向けた拠点として機能することになりました。作業員の皆さんは寒い中、昼夜を問わず事態の収束に向けて命懸けで働いていました。自分自身も福島県の出身です。その故郷を守るために活動されている皆さんの背中をこの目で見て、自分もできることで最善を尽くそうと決意しました。
温かい料理を提供して、作業員の皆さんに体力をつけてもらいたいと必死でした。送り出す時は、皆さんの安全といち早い復旧を願っていました。
各地の避難指示の解除に伴い、一般のお客さま向けに「ハーフタイム」や「アルパインローズ」などのレストランを開業しました。
避難指示解除後間もなくは、地域にまだ住民が少なく、夜になると明かりもなく真っ暗。アルパインローズは小高い丘の上にあるレストランで、そこにだけ電気がついている状態でした。
ある日、地域のおばあちゃんが泣きながら「この明かり消さないでね」と言ってくれたんです。その時、まずここにいる人たちを支えたい、さまざまな葛藤を抱えて帰町を選択した地域の人の気持ちに寄り添っていきたいと強く思いました。
当時、風評は帰町した年配の生産者の生活に大きな影響をもたらしました。食品検査上は問題のない安全な野菜が売れなくなり、生きがいを失いかけていたんです。
そのため、レストランでは、福島県産や地元で取れた食材を使うように心掛けました。自分たちが作った野菜をみんながおいしいと食べてくれる。そこから、生産者が元気を取り戻す姿が目に見えるようになりました。
震災後、慣れない土地での避難生活に疲弊し、孤独を感じていた方がたくさんいました。イベントで避難所や仮設住宅を訪問して、楢葉町の郷土料理である「マミーすいとん」を振る舞うと本当に喜んでくれるんです。食を囲むだけで、表情が柔らかくなって、心が解放される。そして、おのずと周囲とのコミュニケーションも増えて温かい輪に包まれる。食が持つ力を再確認しました。
「元気や活力をありがとう」とよく言っていただけますが、励みになっているのは私の方です。皆さんがが元気に笑顔でいてくれることが私の活力。長い料理人人生の中で改めて、自分の存在意義に気付かされる時間を過ごしました。この経験と感覚は10年たった今でも私の中に生きています。
震災後、子どもたちの食環境が問題となりました。これには運動不足による肥満率の増加や孤食など、震災後の生活環境の変化が大きく関わっています。
そこで親子料理教室や食に関するセミナーを開催。料理に興味を持ってもらうことで、食をきっかけに家族のコミュニケーションを深める狙いがありました。
また、スポーツ業界と連携したイベントにも、食をキーワードに積極的に参画しました。まさに食とスポーツのフィールドで生きてきた私のノウハウで福島県を活気づけられる活動です。
子どもたちの元気は家庭の元気。そして社会全体の元気につながります。食育は活気ある未来づくりに欠かせないものだという使命感を持って取り組んでいます。
福島県は自然が豊かで米も野菜も果物もおいしい。日本代表の帯同シェフとして世界中を回りましたが、こんなに恵まれた場所は珍しいと思います。
その食材を安心して食べてもらえるように、おいしく変身させることが私の仕事。レストランやイベントでの料理の提供はもちろん、現在ではカレーやドレッシングなどの加工品の開発にも力を入れて、おいしさをアピールしています。サッカー日本代表の遠征にも持っていく福島県産の米やうどんは、選手たちからも好評です。徐々に福島県に関心を持ってくれるようになり、心強さと手応えを感じています。
本当にささいで地道な方法かもしれませんが、それが私ができることの全てです。
県民の皆さんが諦めないできたからこそ今があります。サッカーも同じように、諦めない気持ちがあれば必ず夢や希望はかないます。県民がそれぞれの目指す未来に向かって、この先の10年20年それよりも先へ向けて、一丸となっていくように、私も一県民として尽力していきます。