天国の妻からのメッセージ
東日本大震災の津波で、母、妻、息子、娘を亡くしました。正直、何度も自分も家族のもとへ行こうと考えました。けれど、それを引きとめたのが相馬野馬追の存在です。天国にいる妻に「どうしたらいいべかなぁ」と心の中で問いかけると、「お父さんの好きなことをしなさいよ」と答えてくれました。それでまた野馬追をやろうと決心できたのです。
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[相双:南相馬市]
相馬野馬追北郷騎馬会 顧問
1000年以上の歴史をもつ相馬野馬追の伝統を後世に残すため尽力。南相馬市鎮魂復興市民植樹祭応援隊の副代表も務める。
相馬野馬追のために
経験と知識を伝えていく
INTERVIEW 地域から見つめる、あの日から、これから
東日本大震災の津波で、母、妻、息子、娘を亡くしました。正直、何度も自分も家族のもとへ行こうと考えました。けれど、それを引きとめたのが相馬野馬追の存在です。天国にいる妻に「どうしたらいいべかなぁ」と心の中で問いかけると、「お父さんの好きなことをしなさいよ」と答えてくれました。それでまた野馬追をやろうと決心できたのです。
私の今の家は小高区が避難解除されてから新しく建てましたが、わざと昔ながらのつくりにしています。今風の家はどうも私にはしっくりこなくて。10人は寝泊まりできるこの家に、野馬追を見にきてくれる人や仲間たちを泊めて、いろいろな話をします。縁側にミシンを置いて、甲冑の「草摺(くさずり)」を自分でつくったりもしています。野馬追に関わることが、今の私の生きる原動力です。
野馬追は実は経済的負担が大きい。馬の世話をしなければならないから毎日餌代はかかるし、甲冑や武具も自分でそろえなければなりません。それでも続けてこられた理由は「好きだから」、この一点です。家族も応援してくれていました。野馬追は家族の協力なしには続けることはできません。次の世代に野馬追をつなげていくには、知識も必要です。甲冑や武具が大体いくらするのか、馬の飼育代に年間どれだけ必要なのかなど、長年の経験と知識で私にはわかります。その経験と知識を、次世代に惜しみなく伝えていきたいと思っています。訪ねてきてくれれば、どんな相談にものりますよ。
野馬追の未来は、今のままだと厳しいのではないかと思っています。金銭的にも若い世代が野馬追に参加するハードルが高いのです。野馬追に興味を持ってくれている次世代のために、金銭的に支援する体制が必要だと感じています。野馬追のために私ができることはまだまだあるはず。いただいたご縁を大切に、これからも相馬野馬追の発展のために活動していきたいと思っています。