忘れられない誕生日
3月11日は私の誕生日です。平成23年の誕生日は生涯忘れることができないでしょう。これまでに経験したことのない揺れに驚き、牛舎などの施設を確認しました。幸いなことに大きな被害はありませんでした。ホッとしたのもつかの間、原発事故が起きました。漠然とした不安はありましたが、当時の風向きや原発施設との距離などから「何とか被害が少なくあってほしい」と祈る気持ちでした。
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[南会津:下郷町]
株式会社金子牧場 牧場長
震災後、安全でおいしい乳製品の流通のために、生産設備を改良し高品質な生乳を生産。加工品の製造にも意欲的に取り組み、酪農の魅力を発信している。
高品質な生乳を生産
体験事業で情報発信
INTERVIEW 地域から見つめる、あの日から、これから
3月11日は私の誕生日です。平成23年の誕生日は生涯忘れることができないでしょう。これまでに経験したことのない揺れに驚き、牛舎などの施設を確認しました。幸いなことに大きな被害はありませんでした。ホッとしたのもつかの間、原発事故が起きました。漠然とした不安はありましたが、当時の風向きや原発施設との距離などから「何とか被害が少なくあってほしい」と祈る気持ちでした。
震災と原発事故により、県内にある生乳出荷先の工場が被害を受けたため、1ヶ月以上、出荷できなくなり、搾った乳を廃棄するという状況に陥りました。和牛の繁殖も行っていましたが、仔牛の価格が半減。風評被害に屈し廃業が脳裏をよぎりました。
震災の前年には、生乳を原料にしたソフトクリームの6次化商品の製造、販売をスタートし、軌道に乗せたいと張り切っていたこともありました。あきらめず「父母が開拓した牧場を残そう」という思いで再出発することを決意。良質で安全な飼料を生産し、飼育頭数を増やしました。
町とも連携し教育体験旅行の受け入れをはじめました。「食と命の学び」をテーマに子どもたちにチーズやバターづくりを体験してもらうものです。
震災後も事業を継続させた結果、牛の飼育頭数は増え、6次化商品はヨーグルトやチーズに拡大させることができました。牧場を訪れる子どもたちも増加しています。平成26年には福島おいしい大賞、令和元年には福島県農業賞などを受賞。これも周囲の方々のサポートのおかげだと思っています。息子も跡を継いでくれ、家族で酪農事業に取り組む体制が整いました。子どもたちの体験事業は継続させながら、食や命の大切さと地域の情報を発信していきます。