海町の酒として
震災前までは浪江町請戸地区に酒蔵をかまえ、目の前に太平洋が広がる、全国的に珍しい環境で酒造りに励んでいました。代表銘柄の「磐城寿」は海の町の酒。大漁を納めた漁師への贈答品として贈られたり、おめでたい席で振る舞われたり、地域に愛されていました。
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[相双:浪江町]
株式会社鈴木酒造店 長井蔵 会長
浪江町請戸地区にかまえていた酒造店は津波により全壊。避難先の山形県長井市に醸造拠点を移して酒造りを継続している。
酒造りをあきらめない
浪江の精一杯を込めた酒
INTERVIEW 地域から見つめる、あの日から、これから
震災前までは浪江町請戸地区に酒蔵をかまえ、目の前に太平洋が広がる、全国的に珍しい環境で酒造りに励んでいました。代表銘柄の「磐城寿」は海の町の酒。大漁を納めた漁師への贈答品として贈られたり、おめでたい席で振る舞われたり、地域に愛されていました。
3月11日は仕込みの最終日。酒米を蒸す「こしき」を洗い、今年もいい酒ができたと思っている時に地震が発生しました。防災無線から避難誘導の声が響き、酒蔵にいたみんなで役場方面へ避難。消防団の息子は避難誘導に従事、請戸小学校に通う孫はまだ帰宅していませんでした。暗くなってから役場の避難所で孫の姿を見た時は涙が流れました。家族と従業員は全員無事でしたが、津波が跡形もなく請戸の町を流してしまいました。
このままでは鈴木酒造店そのものが忘れ去られてしまう、絶対に酒造りを再開すると決意し、避難先の山形県で長井市の酒蔵を買い受けて、鈴木酒造長井蔵として引き継ぎました。翌年、長井市でつくった酒をはじめて出荷した日、福島県内の酒屋には、代表銘柄の「磐城寿」の復活を待つ人が行列をつくっていたそうです。その知らせを聞いて、安堵と感謝の気持ちでいっぱいになりました。
令和3年には道の駅なみえで醸造が始まります。待ちに待った浪江町での再スタート。浪江産の米を使った酒造りなど、新しい取り組みにも挑戦していきます。積極的に活動する息子や従業員の姿は頼もしいものです。浪江町と長井市に育てていただき、さらに豊かになった鈴木酒造店の味を早く届けたいです。