大きすぎた風評の影響
商工会議所会頭の在任期間、最も頭を悩ませたのは風評への対策でした。会津地方の食品だけでなく、工業製品などにも厳しい目が向けられ、風評の影響を痛感しました。喜多方市は観光名所であるため、県内外に安全であることを発信すべく、行政など関係機関と協力して対策を講じました。
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[会津:喜多方市]
会津喜多方商工会議所 前会頭
避難者への市民の支援を目にし、故郷が生んだ瓜生岩子の教えが脈々と受け継がれていると実感。地域の活性化のために風評の払拭に取り組んだ。
先人の教え受け継ぐ
助け合いの心を見た
INTERVIEW 地域から見つめる、あの日から、これから
商工会議所会頭の在任期間、最も頭を悩ませたのは風評への対策でした。会津地方の食品だけでなく、工業製品などにも厳しい目が向けられ、風評の影響を痛感しました。喜多方市は観光名所であるため、県内外に安全であることを発信すべく、行政など関係機関と協力して対策を講じました。
震災直後、喜多方市は多くの避難者を受け入れました。避難された方々に市民は「助け合い」の精神で寄り添っていました。熱塩温泉の各旅館は受け入れの規定がない時期に、延べ約7,000人泊もの避難者に無料に近い価格で部屋を提供。ある病院は民間病院として初めて、入院が必要な避難者の受け入れを行いました。また、避難所では被災者の送迎に取り組む市民の姿を目にしました。
避難者を懸命にサポートする市民は「誇りを持って行動した」と話していました。私はとっさに瓜生岩子の存在に気付きました。彼女は「社会福祉の母」「日本のナイチンゲール」と呼ばれる郷土が生んだ偉人です。戊辰戦争の時には敵味方の区別なく負傷者の手当てに奔走した先人の生きざまが脈々と受け継がれていると実感できた瞬間でした。
風評の完全払拭の道は険しく、まだまだ厳しい現状が続いています。しかし、市内を訪れる観光客数が回復しているのは、努力の成果が表れてきている証しだと感じます。瓜生岩子の69年の生涯は、私心なく常に社会の弱者の味方となり、子どもの健全育成に努め、まさに仏の菩薩行と評されるものでした。そこにこそ逆境を乗り越えるヒントが隠されていると体感した10年でした。